大手企業の倉庫ビルと小さな農家の納屋・畑を対比させたモダンフラットイラスト

野菜宅配と農家直送、何が違うのか——農家が正直に比べてみた

大阪・千早赤阪村で、農薬や化学肥料に頼らず60種類以上の野菜を育てている農家です。個人宅や飲食店へ、収穫した野菜を直接お届けしています。

「大手の野菜宅配と、農家から直接買うのとでは、何が違うんですか」——そう聞かれることがあります。どちらも家まで野菜が届くのは同じです。でも、中身はずいぶん違います。

農家の目線から、両方の違いを正直に比べてみます。


チェーン店か、個人商店か

大手の野菜宅配と農家直送の違いは、チェーン店と個人商店の違いに似ていると思っています。

チェーン店には安定感があります。どの店舗に入っても同じ味、同じサービス。仕組みがしっかりしていて、困ったときの対応も整っている。野菜宅配でいえば、全国から食材を集め、品揃えを切らさず、案内も行き届いている大手がこれにあたります。

一方の農家直送は、個人商店です。一人の生産者が育てた野菜を、その人から直接買う。店主の人柄や、その年ごとの出来不出来が、そのまま出ます。便利さや均一さでは大手にかないませんが、画一化されていない面白さがあります。

どちらが良い悪いではありません。自分の暮らしに合うのはどちらか、という話です。以下、具体的に何が違うのかを見ていきます。


鮮度——流通経路の差がそのまま出る

いちばん分かりやすい違いは鮮度です。これは流通経路の長さが、そのまま効いてきます。

農家直送の場合、当園では収穫したその日のうちに箱詰めし、発送します。届くのは翌日か翌々日。この短さが、そのまま味の差になります。

大手の宅配は、もう少し経路が長くなります。各地の契約農家から野菜を集め、物流の拠点に集約して、そこから各家庭へ配送する。間に集荷と保管の時間が入るぶん、どうしても日数がかかります。鮮度よりも、品揃えと安定供給を優先した仕組みだといえます。

鮮度がなぜそこまで味を左右するのかは、別の記事に詳しく書いています。

農家から直接、新鮮な野菜を買う方法


届く野菜の中身が違う

大手は全国から旬をリレーする

大手の宅配は、全国の契約農家とつながっています。日本は南北に長いので、同じ野菜でも産地をずらせば収穫期が変わります。北の産地と南の産地で旬のバトンをつないでいく「産地リレー」と呼ばれる仕組みです。

これによって、一年を通して品揃えが安定します。季節を問わずいろいろな野菜が手に入るのは、全国とつながった大手ならではの強みです。

農家直送は「今この畑にあるもの」だけ

農家直送は、その農家の畑にある野菜しか届きません。一軒の畑でとれるものには限りがあるので、選択肢はどうしても狭くなります。夏に白菜は届かないし、冬にトマトは届きません。

その代わり、届くのは正真正銘、その季節の野菜です。そして、同じ畑の野菜を継続して取っていると、年ごとの違いも見えてきます。「今年のこれは出来がいい」「今年は夏が暑すぎて、あれは小ぶりだった」。ワインに当たり年があるように、野菜にも年ごとの個性があります。同じ畑とつきあい続けるからこそ味わえる楽しみです。

言い方を変えれば、農家直送は「家庭菜園の代わり」に近いかもしれません。自分の庭で誰かが野菜を育ててくれていて、できたものが届く。何がどれだけとれるかは、その年の天気や土の調子しだい。そのぶん、届いた野菜に畑の事情がそのまま映っています。


「おまかせ」の裏側

農家直送のもう一つの特徴は、基本的に「おまかせ」だということです。お客さんが品目を選ぶのではなく、その日に採れた野菜を農家がセットして送ります。

この「おまかせ」には、農家なりの判断が入っています。

とれ始めたばかりの野菜は、優先して入れます。まだしばらく収穫が続く野菜があっても、新物のほうを先に届けたい。「初物七十五日」——初物を食べると寿命が七十五日延びる、という言い伝えが昔からあるくらいで、初物にはやはり特別なものがあります。

たくさんとれている野菜は、畑で一番勢いがあるときの野菜です。樹に力があって、味が乗っている。つまり旬の真っ盛り。余らせるのはもったいないので、多めに詰めることもあります。きっちり何グラムと測るより、「これも食べてほしいな」と思ったら入れてしまう。農家ならではの、ざっくりした詰め方です。このおおらかさは、画一化された大手にはないところだと思います。

それから、お客さんのリクエストから栽培が始まることもあります。以前、あるお客さんから「冬瓜が食べたい」という声をもらったことがありました。冬瓜は、毎回届いてうれしい野菜ではないかもしれません。でも、年に一度か二度、ふと届くとしみじみうまい。少しクセがあるぶん、たまに食べるからこそ沁みる、季節ものの野菜です。それ以来、年に一度入れられるくらいの量だけ栽培しています。お客さんのひと言が、畑の作付けを変えることがある。これも、一人の生産者から買うからこそだと思います。


農薬を使わないのは、小さいからできること

栽培の方法にも、規模による違いがあります。

大手の宅配は、安定した量を切らさず供給することが求められます。農薬を使わない栽培は、虫や病気のリスクをどうしても抱えます。そのリスクを、大量に安定供給する仕組みの中に組み込むのは、なかなか難しい。だから一定の農薬を使う栽培が主流になるのは、流通の規模を考えれば自然なことだと思います。批判しているのではなく、大きな仕組みのなかではそれが合理的だ、という話です。

実際、大手の宅配でも、農薬をまったく使わない野菜は一部で、多くは農薬を減らして育てる「減農薬(特別栽培)」です。

一方、小さな農家は、少量多品目が基本の営農スタイルです。一つの野菜が虫や病気でだめになっても、他の野菜でカバーできる。リスクを分散できるからこそ、農薬を使わない栽培にも挑めるのです。小さいことが、むしろ強みになる場面です。

ひとつだけ、正直な気持ちを書かせてください。農薬を使わない栽培と、農薬を減らす栽培は、根本的に難しさが違います。農薬をまったく使わずに育てている農家にとって、これは切実な話です。私たちも、農薬を最低限でも使えば、栽培が圧倒的に楽になると分かっています。それをゼロにするのが、本当に難しい。だから、農薬を減らした野菜とまったく使わない野菜が同じように語られると、作り手としては少し複雑な気持ちにもなります。どちらが上ということではなく、かかっている手間やリスクが違う、ということだけは知ってもらえたらうれしいです。

大阪で農薬や化学肥料に頼らない野菜を買う方法は、こちらにまとめています。

大阪で無農薬野菜を買うには?農家が正直にまとめた購入先ガイド


農家直送に向いている人、向いていない人

ここまで読んで、なんとなく見えてきたかもしれません。農家直送には、はっきり向き不向きがあります。

向いている人

献立に合わせて買うより、届いた野菜で料理を考えるほうが楽しい人。同じ畑とつきあって、年ごとの出来の違いを面白がれる人。チェーン店より、個人経営の店の個性やムラを楽しめる人。こういう方には、農家直送はとても相性がいいと思います。

向いていない人

逆に、おまかせが苦手な人には向きません。献立を決めて、必要な野菜だけを選んで買いたい方にとって、何が届くか分からない「箱」は使いにくいはずです。

仕組み化された親切な案内がないと落ち着かない人も、大手のほうが快適だと思います。個人商店なので、大手のように何でも説明書きが用意されているわけではありません。こまかな案内や行き届いたサポートを大事にしたい方は、大手のほうが安心です。私たち個人の農家は、その辺りはどうしてもおおらかな傾向があります。

それから、有機JASの表示がないと不安だ、という方。ここは少し説明が要ります。

有機JASは、いわば「表示のためのルール」です。不特定多数の人に向けて「これは有機野菜です」と表示して売るために必要な認証で、取得には費用も手間もかかります。当園のように、信頼してくださっている定期宅配のお客さんを相手にしている農家は、無理に取る必要を感じていません。

ときどき「本当に農薬を使っていないんですか」と確かめられることがあります。正直に言うと、それを私が証明する手立ては持っていません。

ちなみに、有機JASの認証も、野菜一つひとつの残留農薬を化学検査しているわけではありません。年に一度の実地調査と、栽培記録や資材の購入履歴の書類確認が中心です。つまり「この農家は手順を守っていますね」という確認であって、「この野菜には農薬が入っていません」という証明とは少し性質が違います。

どうしても第三者の認証がないと不安であれば、有機JASの表示がある野菜を選んでいただくのが確実です。認証にお金をかけられない小さな農家を疑いながら問い詰めるより、そのほうがお互いに気持ちよくいられると思います。


やめるときの話

最後に、続け方とやめ方の違いにも触れておきます。

これは会社や農家の考え方によります。一年単位の縛りがあったり、引き止めが強かったりするところもあるかもしれません。当園の場合は、二日前までに連絡をもらえれば、いつでも止められます。

ただ、ひとつだけお願いを書いておきます。野菜は、短いものでも植える三か月ほど前から、長いものだと半年以上前から準備が始まっています。急に止める連絡をもらうと、その野菜の届け先がなくなり、せっかく収穫したものを捨てることになりかねません。だから、予定が分かっている場合は、できれば一か月くらい前に「今月で終わります」と伝えてもらえると、とても助かります。

それと、台風や猛暑で野菜が思うようにとれない年もあります。大手なら別の産地から補うところですが、農家直送はそうはいきません。「今週は少なくてすみません」と正直に伝えるしかない。ありがたいことに、それで怒られることはほとんどありません。むしろ「畑は大丈夫でしたか」と気づかってもらえることのほうが多い。そういう関係のなかで成り立っているのが、農家直送なのだと思います。

もう一つ、選び方の話をしておきます。産直ポータルサイトも、農家と直接つながる方法の一つです。

大阪の農家は食べチョクをどう考えた?


最後に

公平に書いたつもりですが、農家直送をやっている人間が書いている以上、どうしても贔屓は入っていると思います。それでも、大手の宅配と農家直送のどちらにするか迷っている方にとって、少しでも判断の材料になればうれしいです。

大阪府千早赤阪村で農園を営んでいます。農薬・化学肥料を使わない、自然に沿ったじっくり栽培で育てた野菜を、関西を中心に農園より直接お届けしています。

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