食べチョクとポケマル、農家から見た違いは?
「貴社の製品が、弊社の優良ブランド選考会議で推薦されました」。先日、そんな書き出しのメールが届きました。オーガニック専門をうたう産直サイトからの、出品のお誘いです。「本物はごく一握り」「選ばれし製品にだけお声がけしています」と、文面はどこまでも丁寧で、こちらを持ち上げてくれます。
こういうメールは、めずらしくありません。名前の知れたサービスから、聞いたことのないサービスまで、ひと通り届きます。農家仲間と話していても、「一つくらい登録しておいたほうがいいのかな」という声はよく聞きます。産直サイトはずいぶん増えて、いざ選ぼうとすると、どれが自分の畑に合うのか、案外わかりにくいものです。
大阪・千早赤阪村で、農薬や化学肥料に頼らない有機農業で野菜を育てています。今日は、食べチョクやポケマルといった産直サイトを、農家の側から見るとどう違うのか、手数料や送料も含めて正直にまとめてみます。これから使うかどうか迷っている方の、判断の材料になればと思います。
産直サイトって、そもそも何なのか
食べチョクやポケマルのような産直サイトは、農家と消費者を直接つなぐ通販の場所です。農家が野菜を並べ、買う人はその中から選んで注文する。売れた金額の何割かを手数料として運営会社に払い、その代わりに集客や決済をまとめて引き受けてもらう、というのが基本の仕組みです。
イメージとしては、大きな通り沿いに棚を一つ借りて、そこに野菜を置かせてもらう感じに近いと思います。自分でお店を構えなくても、すでに人が集まっている場所に並べられる。手数料は、その「場所代」であり「集客を代わりにやってもらう料金」です。ここは、道の駅や直売所に野菜を委託するのと、根っこはよく似ています。
産直サイトそのものについては、以前に別の記事でも書きました。よければあわせてどうぞ。
さて、その「棚」にもいくつか種類があります。まずは代表的な食べチョクとポケマルを並べてみます。
食べチョクとポケマル、何が違うのか
それぞれの性格
まず食べチョクは、産直通販といえばこの名前、というくらいに知られた最大手です。コロナ禍で家にいる時間が増え、通販が一気に伸びたころ、テレビでもよく見かけるようになりました。あのタイミングをつかんで一気に大きくなった、宣伝の打ち方がとても上手なサービスです。人を集める力という一点でいえば、今のところここがいちばん強いと思います。
いっぽうのポケマルは、実はこちらのほうが先に始まっています。特徴は、生産者と買う人が直接やりとりできること。届いた野菜の感想を送ってもらったり、こちらから畑の様子を投稿したり、という交流そのものがサービスの真ん中にあります。かたちの不ぞろいな「訳あり品」を扱うページがあるのも、ポケマルらしいところです。
つまり、力を入れている場所が違います。食べチョクは、人を集めることに。ポケマルは、作った人と話せるという体験に。どちらの棚に自分の野菜が似合うかは、実際に両方をのぞいてみると、なんとなく見えてくると思います。
手数料をくらべてみる
農家がいちばん気にするのは、やはり手数料でしょう。調べてみると、おおよそこんな具合です。
– 食べチョク:売れた金額の約20% – ポケマル:約23%(ほかに伝票の発行手数料) – 産直アウル:約19.5%(同上)
ここ数年はどこも改定が続いていて、上がる方向にあります。数字は2026年時点のものなので、登録前に公式サイトで最新のものを確かめてください。
比べる相手として、道の駅や直売所の委託手数料も見ておくと、相場は15%前後です。安いところで10%強、観光地の施設などでは25%近いこともあります。こうして並べると、産直サイトの20%前後というのは、道の駅よりやや高いくらい、という位置づけになります。集客も決済も宣伝もまとめて引き受けてもらえて、しかも「農家から直接買いたい」と思って来た人の前に並べてもらえるのですから、そう法外な場所代ではないと思います。
ただ、同じ20%でも、何を売るかで重みは変わります。
年に何度かの贈り物やお取り寄せは、少し値が張ってもいい買い物です。きちんとしたものであることのほうに意味がありますから、20%を乗せた値段でも選んでもらえます。いっぽう、毎週の食卓に並ぶ野菜となると、値段への抵抗ははっきり出ますし、その分が毎週ずっと乗り続けることになります。産直サイトの棚に、贈答用の箱やお取り寄せの詰め合わせが並びやすいのは、たぶん偶然ではありません。あの棚は、そういう買い物と相性がいいようにできています。
裏を返せば、毎週届けるような日常の野菜を売るのなら、棚を借りるより自分で建てたほうが計算は合いやすい、ということでもあります。そこで出てくるのが、自分でネットショップを開けるBASEやSTORESのようなサービスです。費用は決済手数料を中心に、実質5〜7%ほど(2026年時点、プランによります)。売上が育てば月額制のプランに切り替えて、決済3%弱まで下げることもできます。
そのぶん集客は自分でやらなければなりません。ただ、その大変さもここ数年でずいぶん変わりました。ホームページは知識がなくてもそれなりの形になりますし、畑の様子はインスタグラムで届けられます。通販でいちばん地味に面倒なカード決済も、今はSquareのように決済だけを引き受けてくれるサービスがあります。すでにお客さんとのつながりがある農家なら、こちらのほうが手元に多く残ります。
送料は、むしろ安くなる
意外に見落とされがちですが、送料の面では産直サイトに分があります。食べチョクもポケマルも、大手の運送会社とまとめて契約しているので、農家が一人で契約するよりも安く送れます。地域によっては、ふつうに送るより2割、3割と安くなることもあります。
生鮮の野菜は、どうしても送料がかさみます。ここを安くできるのは、たくさんの荷物をまとめて動かせるサイトならではの強みです。
ただ、これは自分のネットショップでは打つ手がない、という話でもありません。送料は結局のところ物量です。毎週まとまった数を出すようになれば、運送会社と直接交渉する道は開けます。荷物が増えてきたら、一度こちらから当たってみる価値はあると思います。
審査は、身構えるほどのものではない
食べチョクにもポケマルにも、出品には審査があります。そう聞くと、なにやら厳しい関門のように感じるかもしれません。実際に調べてみると、出すのは栽培の記録や、事業として営んでいることがわかる書類が中心で、そこに矛盾がないかを確かめる、という形が多いようです。畑まで見に来て一つひとつ確認する、というものではないと見ています。
ですから、これから始める農家も、あまり構えなくて大丈夫です。税務署に開業の届けを出して、ふだんから栽培の記録をつけている。趣味ではなく仕事として畑に向き合っている。そういう当たり前のことができていれば、たいていは通ります。
「環境に配慮し、農薬や化学肥料の使用を減らして育てられたものだけを扱っています」といった一文を掲げているサイトもあります。立派な基準に見えますが、これも身構えるほどのものではありません。防除というのは暦どおりに撒くものではなく、虫や病気の出方を見ながら、必要なときに必要なだけ撒くものです。撒けばそのぶん手間もかかりますから、要らないなら撒かない。それがふつうの農家の感覚だと思います。
ここで一度、ご自身の防除歴を数えてみてください。国には「特別栽培農産物」という基準があって、その地域の慣行の回数にくらべて、農薬も化学肥料も半分以下に抑えていれば、そう表示できることになっています。改めて数えてみると、思っていたより慣行の線から離れていた、という方もあるのではないでしょうか。「減らして育てています」というのは、多くの農家が、もともと自然にやっていることでもあるのです。
じゃあ、どれを選べばいいのか
ここまで見てきたように、産直サイトはよくできた仕組みです。自分でゼロからお店を立ち上げて、お客さんを集めて……という苦労を思えば、すでに人が集まっている場所に棚を借りられるのは、やはり大きな強みです。手数料は、その集客をまるごと肩代わりしてもらう対価だと考えれば、腑に落ちます。
食べチョクとポケマルのどちらか、ということで言えば、知名度と集客の力で選ぶなら食べチョク、お客さんとのやりとりや、かたちの不ぞろいな野菜も含めて売りたいならポケマル、というのが素直な選び分けだと思います。迷うなら、両方に少しずつ出してみて、自分の野菜と客層に合うほうを見ればいい。手数料は売れたぶんにしかかかりませんから、置いておくだけなら痛手はありません。
広げる前に、工程が合うかを見る
一つだけ、先に考えておいたほうがいいことがあります。販路を増やすというのは、棚を一つ増やすことではなく、その棚に合わせて自分の作業工程を組み直すことだ、ということです。ここの見極めを外すと、せっかく登録しても続きません。
その意味で、すでに毎日出す工程を持っている農家は強いと思います。直売所を構えていたり、道の駅に毎朝出していたりする農家なら、収穫して、袋詰めして、出す、という流れがもう体に入っています。ネットの棚は、その延長にすっと乗ります。果樹や、一つの品目を大きく作っている農家も同じです。収穫の時期が年のうち数か月に限られていて、その間に一気に出す工程がすでにある。そこへ売り先が一つ増えるだけなら、無理なく足せます。
うちは、逆でした。火曜と金曜に定期宅配を出荷していて、一週間の作業はこの二日に向けて組まれています。そこへ単発の注文が一つ二つ入るというのは、箱を一つ増やす話ではなく、工程をもう一本つくるという話になります。実は昔、近くに道の駅ができるとき、声をかけてもらって出荷者に登録だけしたことがあるのですが、毎日そこまで運ぶ工程を思うと続けられる気がせず、結局一度も出さずじまいでした。もっとも、毎朝集荷に回ってくれる直売所もあるようなので、これはうちの近所の事情にすぎないのかもしれません。
無理に広げなくていい、と判断した一例です。棚を借りること自体は簡単です。難しいのは、そこに野菜を並べ続ける工程のほうなのだと思います。
結局は、道の駅の延長のようなもの
いろいろ書きましたが、産直サイトというのは、結局のところ道の駅の通販版のようなものだと思っています。棚を借りて、野菜を並べて、通りかかった人に買ってもらう。その棚が道路沿いにあるか、スマートフォンの中にあるか、という違いです。
だから、あまり難しく考えることはありません。道の駅より手数料が少し高いぶん、集客も送料も楽になる。工程さえ合うなら、道の駅の延長くらいの気軽さで使ってみればいいのだと思います。家にいながら全国のお客さんに届けられるというのは、通販ならではの確かな便利さです。新しく始める農家や、売り先を広げたい農家にとって、心強い入り口になるはずです。
うちはうちで、近くのお客さんと直接つながる道を選びました。毎週受け取ってくださる方に、なるべく軽く続けてもらいたい。それが、うちの選んだ形でした。
近くの農家から直接買うということ自体については、別の記事にまとめています。
どの棚に野菜を並べるかは、それぞれの農家が、自分の畑と相談して決めればいいのだと思います。