スマートフォンの通販アプリ画面と、農家がお客さんの家に直接野菜を届ける様子を対比させたアースカラーのフラットイラスト

大阪の農家は食べチョクをどう考えた?

六月の終わり、夏野菜の畑がようやく動き出します。ナスもキュウリも、最初の一週間はほんの数本。それが次の週には両手にあふれ、ピークになると「今週はどうさばこう」と悩むほど採れます。同じ畝から採れる量が、週ごとにまるで違うのです。

野菜は工業製品のように「毎週この数だけ」とはいきません。天気に振り回され、気温に急かされ、こちらの都合ではなく畑の都合で実っていきます。

大阪・千早赤阪村で、農薬や化学肥料に頼らない、有機農業で野菜を育てています。だからうちでは、毎週・隔週・4週に1回と、お客さんごとに頻度やサイズを変えた定期宅配で、この週ごとのばらつきを吸収しています。

食べチョクやポケマルといった産直ポータルが当たり前になった今、「農家ならとりあえず登録するもの」という空気さえあります。それでもうちは出していません。今日はその理由を、畑の側から書いてみたいと思います。


食べチョクって、どんな仕組み?

産直ポータルは、農家と消費者を直接つなぐ通販サイトです。全国の農家が出店し、買う人は野菜や果物を選んで注文する。農家にとっては、自分でお店を構えなくても、大きな通り沿いに棚を一つ借りて並べさせてもらう、というイメージに近いと思います。

売れた金額の何割かを手数料として運営会社に払う、というのが基本的な仕組みです。その代わりに、集客や決済、宣伝といった「売るための面倒」をまとめて引き受けてくれます。

正直、これはよくできた仕組みだと思っています。というのも、ふつうにGoogleで「有機野菜 通販」などと検索しても、上位に出てくるのは比較サイトや広告ばかりで、実際に野菜を作っている農家にはなかなかたどり着けません。産直ポータルは、そこに一つの入り口を作ってくれました。一目で全国の農家を見渡せて、その中から選べる。テレビや雑誌で「農家から直接」という買い方を広めてくれたのも、こうしたサービスの功績が大きいと思います。

農家から直接買うというのが具体的にどういうことなのかは、大手の野菜宅配と比べながら別の記事に書いています。

野菜宅配と農家直送、何が違うのか


食べチョクに合う農家

では、どんな農家がポータルを使うといいのか。使う側の立場で考えてみます。

まず、新しく就農して、まだお客さんがいない農家。畑は始めたけれど、売り先がない。自分でホームページを作ってSNSで発信して……というのは、何年もかかる地道な仕事です。その間、宣伝を肩代わりしてくれるポータルは、大きな助けになります。

もう一つは、大規模に、しかも少ない品目で作っている農家。トマトならトマトを、まとまった量で育てている。こういう農家は、大々的に募集しても応えられるだけの収穫量があります。たくさん採れて、たくさん売りたい。その出口として、大勢の買い物客が集まる場所は理にかなっています。

考えてみれば、楽天のような大きな通販モールに多くのお店が出しているのも、同じ理屈です。自分でゼロから集客するより、すでに人が集まっている場所に棚を借りたほうが早い。手数料は、その「集客を代わりにやってもらう料金」なのだと思います。決して、出している人が損な計算をしているわけではありません。


食べチョクに合わない農家

一方で、うちのような農家には、この仕組みがあまり噛み合いません。理由は大きく二つあります。

畑に「余り」が出にくい

一つは、そもそも売りに出せる「余り」が、ほとんど出ないことです。

うちは、有機農業で、少ない量で多くの品目を育てています。そして、定期宅配のお客さんに毎週届ける数を先に決めて、それに合わせて畑の作付けを組んでいます。「たくさん作ってから売り先を探す」のではなく、「届ける分だけ作る」。順番が逆なのです。

夏野菜のピーク時など、どうしても余るときはあります。そのときは無理に抱え込まず、その分だけやりくりして出しています。冬野菜には、追肥を重ねれば長く収穫を引っぱれる品目もあります。たとえば茎ブロッコリーは、追肥次第で12月から2月まで採り続けることもできます。でもうちでは、そこに手をかけるより、茎ブロッコリーの次にアンチョビ菜、そのあとに子持ち高菜、というふうに次の野菜を仕込むことを優先します。同じ野菜を長く引っぱるより、畑をどんどん入れ替えて、毎週採ってくださるお客さんに違う顔ぶれを届けたい。それが、少量多品目でやっていくときの実際の考え方です。

余りを見込んで多めに作れば、その管理にまた手が取られます。あちこちに在庫を抱えて、どこに何をいくつ出すかを追いかけているうちに、肝心の畑が回らなくなる。「毎週これくらい」と決めて栽培量を決めたほうが、一つひとつの野菜に目が届きます。大量に作って在庫でならす、というのは、やはり規模の大きな農家の考え方に近いのだと思います。そして大きく作ろうとすると、どうしても同じ野菜をまとめて育てるほうが効率がよくなり、品目は絞られていく。飽きのこない野菜セットとは、少し逆の方向へ向かいます。

そして手数料の問題も避けれません。手数料そのものが惜しいというより、手数料を払う余力があるなら、その分お客さんの箱に野菜を一つでも多く入れたい。これが正直な気持ちです。

一つの売り先に頼るのがこわい

もう一つは、一つの売り先に頼りきることへの、農家としての警戒心です。

野菜は、天気ひとつで収穫が大きく変わります。だからこそ、一つの品目に賭けず、いろいろな野菜を育ててリスクを散らす。これは自然を相手にする農業の、基本的な知恵です。

売り先も、同じだと思っています。もし売上の多くを一つのサイトに預けていたら、そのサイトの方針が変わったり、サービスそのものが立ち行かなくなったりしたとき、こちらの経営まで揺らいでしまう。細くても、自分の足で立っている売り先をいくつか持っておく。そのほうが、長い目で見て強いと感じています。畑の多様性と、売り先の多様性は、どこか似ています。


売り先は、続く関係を軸に選ぶ

こう書くと、ポータルを敵視しているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。要は、自分の畑に合う販売方法を選んでいるだけです。

うちの場合、定期宅配は農園のホームページで直接申し込んでもらい、お支払いは銀行振込です。毎週のように受け取ってくださるお客さんが多いので、なるべく余計な費用がかからない形にしています。ときどき単発で欲しいという方には、余っている分だけ、その都度お分けすることもあります。

ただ、大きなモールに深く入っていくことには、やはりためらいがあります。ああいう場所は、最後には価格の競争に行き着きがちだからです。楽天のような通販モールを見ていても、どのお店も「こだわり」をうたいながら、結局は少しでも安く、少しでもお得に、と値段を下げ合っている。その流れに巻き込まれると、丁寧に作ることより安く出すことに気を取られてしまう。それは、うちのやりたいこととは違います。

うちには、十年以上も野菜を取り続けてくださっているお客さんがいます。親御さんが取ってくれていて、お子さんが独立したらそのお子さんにも送るようになったり、逆に、独立したお子さんを気づかう親御さんから「あの子にも送ってやってほしい」と頼まれたり。新しいお客さんも、そういう方の紹介でつながることがほとんどです。こういう関係は、一回きりの売り買いからは、なかなか生まれません。


大阪の農家は、それでいい

最後に、これは大阪で農業をしていて思うことです。

ポータルを上手に使っている農家には、地方で作って、大都市のお客さんに届けている方が多いように見えます。作っている土地と、食べてくれる人がいる土地が、遠く離れている。その距離を埋めるために、全国に開かれた場所が要る。それは自然なことだと思います。

でも、大阪の農家は少し事情が違います。作っている場所のすぐそばに、たくさんの食べてくれる人がいる。地産地消という言葉そのままの距離に、もともといるのです。わざわざ全国に棚を借りに行かなくても、近くの人と直接つながっていけます。

そう考えると、ポータルに頼らなくてやっていけるというのは、大阪の農家ならではの、ちょっとした幸運なのかもしれません。近くの畑の野菜を、近くの人が食べる。当たり前のようでいて、案外ぜいたくなこの距離を、これからも大事にしていきたいと思っています。

大阪府千早赤阪村で農園を営んでいます。農薬・化学肥料を使わない、自然に沿ったじっくり栽培で育てた野菜を、関西を中心に農園より直接お届けしています。

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